眠れぬ夜のすばる亭 〜幻想探偵フラクタル・2〜

「眠れぬ夜のすばる亭 〜幻想探偵フラクタル・1〜」からお読みください。

では、後半戦。

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[本文]

 

Episode 3∝4

[世界の話]

少女の円 と この世界の円 のフラクタル

この世界の円 と クロニクル世界の円 と クロニクル世界の人間の円

それをつないでいけば、みんな円になる

それをつないでいけば、歪みも円になる

だからフラクタルは、まずはちいさな少女の円を

少女が消えたあとの世界にあとすこし生きる、少年に託す

少年の円は いつか 世界の円になる

そうしていけば、歪んだクロニクル世界も、円になる

クロニクル世界がいま歪んでいるのは、この世界と フラクタルだから

 

 

Episode3 カタストロフ(8P)

少年「僕」は新社会人になっている。

 

人がばたばた死んでいく。マンションの隣人が、通勤電車で乗り合わせた人が、母校の先生が、友人の父親が、母の姉が、好きだった漫画家が、アイドルが……。

 

この世界はどうなってしまったんだ。

子どもの頃、学生の頃、思っていた未来は、こんなじゃなかった。

なにかが狂ったんだ。いつ? どこで?

 

池袋駅13番ホームの売店で、小銭を渡した店員が、あの猫の目をしていた。店員は言った。

「ほら、君たちの世界でも、歪んだ人間は死んでしまうようになってしまった」

僕は怯えながらあとずさり、人にぶつかった。

ぶつかったサラリーマンも、あの猫の目で僕を見下ろして、言った。

「むしろ私はこれまでの、この君たちの世界がふしぎでならなかった」

通りすがりのOLが猫の顔で言葉を継ぐ。

「だって、あんなに歪んだこころをしているのに、からだは歪まないで歩いていられる、息を吸っていられるあなたたち、異様だったわ」

 

[電車が参ります]のアナウンス、

ホームに滑り込んできた猫の顔をした山手線がしゃべる。

「今こうやって、まだ生きている君だって、私たちからしたら、死者とそう変わらない。だって、こころが息をしていないもの」

 

主人公、猫の波にのまれて電車に押し込まれる。

山手線が発車する。

 

山手線は、東京のいろいろな場所を走る。

 

猫のビルが言う。

「いい気なもんだよなぁ」

「てめえらの歪んだこころは隣の世界にほっぽりだしといて、からっぽになったからだで金儲けを続けていた」

「そりゃ、からっぽなら、歪んでも死んでもいない状態で、金儲けができるもの」

猫のビルは笑った。

 

猫の東京タワーが言う。

「でも、もうこの街は、金儲けも飽和した」

「東京市場は偽装された円環のロンダリングで暴落」

「バブルがはじけてどうなるか」

バブルのような猫の目がたくさん、東京上空をただよっている。

 

その無数の猫の目が閉じると、バブルは「あの」プルームになった。

プルームは渦を巻き、猫の怪物になった。

 

「わかるよねえ、もう、この世界の魂は食い尽くした」

「さて、次の世界に向かうかな」

「真円の魂はシンエンで食えないからね。隣の世界の魂たちも、歪めておいたんだ……僕だって世界に産まれた以上、飢え死にはごめんだからね」

 

僕は訊ねた。「君は……、あのフラクタルなの?」

 

猫の怪物はこたえた。

「フラクタルだよ。ただしあの探偵じゃない、フラクタルそのものだ」

 

[悪夢だ――]、僕は“目を覚ました”。

そこはあの霧の都だった。

 

僕は古書店に入り、辞書を引いた。

 

 

 

[フラクタル[fractal]]

部分と全体とが同じ形となる自己相似性を示す図形。

[フラクタル理論]

複雑で不規則な図形では、どの微小部分にも全体と同様の形が現れる自己相似性があり、したがって部分を次々に拡大すれば全体の形が得られるとする理論。

 

フラクタルの特徴は直感的には理解できるものの、数学的に厳密に定義するのは非常に難しい。マンデルブロはフラクタルを「ハウスドルフ次元が位相次元を厳密に上回るような集合」と定義した。完全に自己相似なフラクタルにおいては、ハウスドルフ次元はミンコフスキー次元と等しくなる。

フラクタルを定義する際の問題には次のようなものがある。

・「不規則すぎること」に正確な意味が存在しない。

・「次元」の定義が唯一でない。

・物体が自己相似である方法がいくつも存在する。

・全てのフラクタルが再帰的に定義されるとは限らない。(Wikipedia)

 

 

 

大小さまざまな猫が、僕の脳裏をよぎった。

僕はつぶやく、「フラクタル―――世界を、どうしたらいい」

 

 

 

Episode4 8P

探偵フラクタルの話

 

私はずっと探偵をやってきた

ずっと見てきたよ、人間たちの強欲と歪んだ情動

悲劇、破滅、そしてあっけない死と生

残酷なのは世界か、人間か

 

そうしているうち それを追い求めたのは

人間として ありふれたことだったろう

研究者の探究した真理 芸術家が追求した美

世界 それ、そのもの それ、そのものとのつながりを

 

あの日、私はたくさんの円環をならべて

世界と契約をした

 

世界に位相の反映する経路を

世界を位相の反映するスクリーンに

 

世界は問うた

「なぜ、おまえがそんなことを望む

ただひとりの存在である、ちいさなおまえが」

 

私はこたえた

ただひとりの存在である私が、ただひとりの存在でありながら、

ただひとりでない世界と同格の存在であることを

確認するためだ と

 

世界は笑った

「そんなことは自明ではないのかね」

 

私はこたえた

それが真理であったとしても

この目で、この体で、この意識で 確認するまでは

私には真理と呼べないのだ と

 

世界は目を細めた

猫のように

 

「いいだろう ただし

君のフラクタルは 君をもとにしたフラクタルだ」

「他者とつながることとは 一切 同義でない」

「それでも?」

 

たくさんの謎と

真理をおいかけてきた

うつつ世にはもうなにひとつ

謎などなくなったように思えたのに

それはきっと私の世界が だんだんに閉じていって

ただ 世界のすがたがみえなくなっていたのだった

 

 

場面は変わり、今のクロニクル軸に戻る。

 

探偵フラクタルは、薄暗い古書店の奥の部屋で、分厚い本を閉じる。

 

「そんな傲慢で狭量な私をもとにしたフラクタルだ」

「歪んでいるわけだ――」

 

 

長椅子で煙をふかす探偵フラクタルに、プルームが這い寄る。

プルームは猫の形になる。相似のフラクタルは見つめ合う。

 

「これで終わり、対消滅だ」

「この世界は、私の世界は、私は、……なんだったのだろうか?」

 

 

探偵は消えた。しかし、ちいさな、猫の形の「もと」は残された。

少女も消えた。しかし、ちいさな、円の形の「もと」が残された。

 

みんな消えた。しかし、ちいさな、みんなの「もと」は残された。

 

それはつまり、

世界はなにもかわらず、みんな、だれも消えることなく

歪んだみんなは「もと」に還って また 生きていくという

それこそが

フラクタル なのでは ないだろうか 。

 

 

end.

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